しーっ、静かに

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私は音の記憶を翌日に持ち越せない特殊な記憶障害の持ち主だ。寝て起きると昨日までの音の記憶が脳内から消されてしまう。
音と言っても言葉は大丈夫。それは文字と認識し記憶されている。だが人の声は憶えられない。
私生活に問題がないとはいえ、まるで無声映画のような記憶には辟易している。
猫や犬の鳴き声が好きなのに翌日には忘れてしまう。
「それは考え方一つで変わるよ。例えば音楽。感動的なメロディなら毎日感動できる。毎日美味しいものを食べられるのと同じじゃない?」
夫の楽観的な考えにため息が出る。そんな単純なものじゃないっての。
「そう?君ってば毎朝目覚まし時計から流れる音楽に衝撃を受けているよ」
くすくすと笑う夫。
「僕はそんな君の顔を見るのが好きなんだ」
私は夫の優しいその声に毎日聞き惚れている。私の一番好きな音だ。
そんな夫の声を記憶したくて、つい私は矛盾した事を言ってしまう。しーっ、静かに。と。
SF
公開:22/08/27 20:26

幸運な野良猫

元・パンスト和尚。2019年7月9日。試しに名前変更。
元・魔法動物フィジカルパンダ。2020年3月21日。話の流れで名前変更。
元・どんぐり三等兵。2021年2月22日。猫の日にちなんで名前変更。

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