ああ、夏祭り

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路地を歩いていると祭り囃子が聴こえてきた。あの夏の思い出が蘇る。「ああ、夏祭り。」と呟いてみる。
中学生の頃。この季節、いつもボクは憂鬱な気分になっていた。ボクには友達がいなかった。学校では少し喋る人間は何人かはいた。しかし、友達と呼べる人間はいなかった。特に夏祭りに一緒に行くような人間は。ボクは夏祭りが嫌いだった。夏祭りなんて無くなってしまえと思っていた。
でも、その夏は違った。
「夏祭り、一緒に行かない?」
「えっ?」
「だから、夏祭り。一緒に行かないかって聞いてるの。」と突然、クラスメートの女の子に誘われた。ボクがどうして良いか分からずモジモジしていると「何か予定でもあんの?ないでしょ?」「うん。」「じゃあ、決定ね。」

祭り囃子が聞こえる。
「懐かしいね。夏祭り。」
「一緒に行ったよね。あれ何年前だっけ。」
彼女がボクの隣で笑っている。
「ああ、夏祭り。」
ボクはもう一度、呟いた。
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公開:22/08/29 10:37

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時折、頭をかすめる妄想のカケラを集めて、少しずつ短いお話を書いています。コメントは励みになります。

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