ベートーヴェンのC

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晩年のベートーヴェンは目で音を聞いていた。音楽畑の人間なら一度は耳にする逸話だ。
重度の難聴を患いながら作曲を続けたベートーヴェン。彼は失った聴覚の代わりに、絶対音感視覚という特殊能力を発達させた。
聞こえた音の高さを音階で把握する絶対音感。ベートーヴェンにはこれが視覚でできたらしい。
ピアノから発する音、人の声や日常の物音、頭で再現し、曲として組み立てる音。楽譜を読む様にそれらの音を目で感じていたなら、ベートーヴェンの視界はさぞ騒々しかった事だろう。

一説によれば、ベートーヴェンの死因は鉛中毒だったそうだ。
彼の死後、遺体から大量に検出された鉛は、加齢につれ衰えた視覚により、鉛の様に色褪せた音符の残骸だった事を、彼の曲に熱狂した多くの聴衆は知らない。
生涯を音に囲まれ続けたベートーヴェン。ドイツの音階はC(ツェー)で始まるが、英語風に『C(シー)!』と黙らせたい日もあったかも知れない。
ミステリー・推理
公開:22/08/22 13:22
月の音色 月の文学館 テーマ:しーっ、静かに

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

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