とある御山の伝承

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ある御山に天狗がいた。ある時、城から逃げてきた姫に恋をした。姫もまた天狗を好いた。二人は愛を誓い、山奥でひっそりと暮らした。

子供の頃に聞いたそんな小話を、ぼんやりと思い出しながら、人生に絶望した私は虚ろな目で山中を歩いていた。何もかもぼろぼろになるまで歩いた後、ぺしゃんと座り込んだ。もう、疲れた…と、そう思った時。

(見つけた)

声がした。次の瞬間、目の前に人?が現れた。不思議そうに見ているとその人は、何日も洗っていない私の頭に手を当てた。するとどうだろう。きらきらした記憶が私の中を優しく駆け巡っていく。しばらくの後、私の目から涙が溢れた。

「 」

声が掠れて上手くしゃべれない。そんな私を優しく見つめて、
「もう一度、共に生きましょう。」
私が支えますから。と、抱きしめる腕に顔を埋めながら、心に希望が灯るのを感じた。

どんな不仲も解してくれるという、とある御山のお話。
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公開:22/08/20 21:42

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