もう一人の貴方

4
5

飛ぶ鳥を落とす勢いの、IT企業。
創業者の若い社長は、人も羨む億万長者だ。
だが実はそこはブラック企業で、陰で泣いている人も多いとの噂だった。

ある日、その社長に一人の面会者があった。アポなしで現れたその人は、社長にソックリだった。
その男は言う。「私は、もう一人の貴方で、もう一つの世界から来た」
「何だと?」

彼の話では、この世と“対”になる世界があり、こちらが栄えている時はあちらは辛い時期にある。
プラスマイナス・ゼロを成しているという。

社長は聞いた。「それはバーチャル世界の事か?」
「そう考えてもいい。ただ、本来は私たちは、お互い会ってはいけない存在なのだ」
「では何故、私に会いに来た?」
「今の私の状況が、辛すぎるからサ。君のIT技術のすき間を渡って、たどり着いた」

男はそう言って、社長に抱きついた。途端に、二人の姿が大きく揺れ、二人とも一瞬にして消えてしまったのだった。
SF
公開:22/08/16 16:01
プラスマイナス・ゼロ

tamaonion( 千葉 )

雑貨関連の仕事をしています。こだわりの生活雑貨、インテリア小物やおもしろステーショナリー、和めるガラクタなどが好きです。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容