そうめん流し

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夕暮れ時、川にそうめんを流すのが夏の風物詩となっている田舎を観光で訪れた。
地元の住民と思われる老人が話しかけてきた。
「灯籠流しはよくあるが、この村では、昔から年に一度お盆の時期に、そうめんを流すんじゃ。
観光客の中には『食べ物を川に流すなんてもったいない』と言う者がおるが、それは違う。
川の流れで細かくなったそうめんが小魚に食べられ、その小魚が糞をして川の中にいるバクテリアが糞を分解する。川は肥沃になり、この川の水の恵みが村の農業を支えている。これが自然の営みっていうやつじゃ」
「食物連鎖ともいいますね。うまく資源が循環していて川も綺麗に透き通っています」
「流すのは、同じ麺類でもうどんやそば、ラーメン、パスタじゃなくて、そうめんじゃないとダメなんじゃ。この村の方言では『そう』が『そうる』と訛る。『そうる』は霊や魂のことじゃ」
鎮魂の思いを込めてそうめんが清流を涼しそうに泳いでいった。
その他
公開:22/08/14 06:04
そうめん 灯籠流し お盆 バクテリア 食物連鎖 鎮魂

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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