暴走パン

最初に異変に気付いたのはパン屋の職人だった。
「最近、パンがよく膨らむなぁ」
パンはイースト菌が発酵して発生した炭酸ガスによって膨らむ。そこでイースト菌の量を少なくして調整していた。最近の物価上昇に伴い、小麦などの原材料費が上がっていたので少ない量で同じパンが作れると助かる。
「それにしても今年の夏は異常に暑いなぁ」
数十年前までは日中の気温は30℃以下であったが、今年は平均でも35℃を超えてしまった。
ある日、至るところのパン屋から悲鳴が上がった。パンが泡のようにどんどんと膨らみ店中パンだらけになってしまった。
「何が起きているんだ？」
するとゴミ処理場でも同じ現象が発生していた。大量に廃棄されたパンが膨らみ始めたのだ。一度、暴走が始まると止まらない。日本中がパンだらけになってしまった。
調査の結果、イースト菌の繁殖温度である35℃が続いたため、臨界を超えて異常増殖したらしい。