嬰児(みどりご)の樹

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蝉しぐれの降りしきる夏の日、小さな小さな緑の庭に、小さな命が梢のざわめくような産声を上げた。

季節外れの新芽の香りに包まれて、かすかにしわの寄った顔がふわりとあくびを吐く。
烈日と嵐のただ中を越え、ようやくこの地に根ざしたばかりというのに、まるで木洩れ陽が眠っているようだ。
さみどり色をしたやわらかな拳は、思いのほか頑固に強く、やがて伸びゆく枝葉を握りしめてある。

この先、どんな風がこの髪を揺らすだろう。
どんな雨がこの頬を洗うだろう。
明日の明日のずっと先、どんな陽光が、月が、星が、まだ開かぬこの瞳を照らすだろう。


臍帯の解かれた丸いへそに立ち上がった双葉は、夏を育ち、秋を彩り、冬枯れを耐えて春を寿ぐ。
――耳を澄ませば、櫻色の前線を駆け抜ける、軽やかな足音が聞こえてくるようだ。

そしてまた夏、命はきららかな風に乗って、この緑の庭へ還ってくる。
その他
公開:22/08/13 00:12
出産祭り 赤ちゃん祭り ぱせりんさん 『桜前線の桜庭さん』リスペクト

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

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