絶望の書店

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エベレストの絶壁の上に絶版した本だけが揃う「奇跡の書店」があるという。
登山家の間では、その書店に辿り着ければ「奇跡」という意味も込められている。
人びとは絶版の本を求めて「奇跡の書店」を目指す。
登山に慣れていない本好きの者が向かえば、その標高のせいか息が絶え、高山病にかかり、途中で断念する。
いよいよ最後の断崖絶壁に到着しても、ここからが最大の難関だ。
「奇跡の書店」までは、けっして太くない一本の紐で結ばれた木造のロープウェイに乗らなければならない。しかも、そのロープウェイは手動で、使いこなすのは至難の業だ。
ロープウェイをなんとか使いこなしたところで、高度が上がれば上がるほど絶妙のタイミングで突風が吹く。ロープウェイは激しく揺れ、絶景を眺める余裕などなく絶体絶命の大ピンチとなる。
だから「奇跡の書店」は「絶望の書店」とも呼ばれ、まだ誰も辿り着いていないし、どのような書店かも知らない。
その他
公開:22/08/11 07:17
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SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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