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僕はひとりで河原にたたずんでいた。
人生何もかもうまくいかない。借金取りに追われ、もう生きるのが嫌になった。僕を必要とする人はこの世にいないのだ。
このままこの川に飛び込んで死のう。

その時、キャーという叫び声と共にドボンと水音があがった。
「川に誰か落ちたぞー」
しばらくすると子どもの頭らしきものが下流へ勢いよく流れるのが見え隠れした。たぶん近くの橋から川へ転落したのだ。叫んだのは母親だろう。
僕は何も考えず飛び込み、無我夢中で追った。泳ぎだけは得意だったのだ。
その後のことはおぼえていない。気が付くと岸にたどりついていて、人に囲まれていた。
野次馬の一人が言った。
「おまえよくやったよ。救急車がもうすぐ来る。子どもも無事だ」

母親が男の子を抱きかかえている。
「あなたは救世主です…あなたがいなかったら息子は…」

僕は必要とされたんだ。
「いえ…息子さんが僕の救世主です」
その他
公開:22/08/09 19:43

ナユセナユ

どんでん返しが好き。ちょっとずつ書いていきたいです。

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