お気に入りのカップ

会社の給湯室に置いていたマグカップが真っ二つに割れてしまった。もう何年も使っていたお気に入りの代物だ。
新入社員美咲ちゃんの仕業だった。涙目で「ごめんなさい、先輩。ついうっかり…」としょげている。
棚に自分のカップを戻そうとして、私のものを落としたらしい。もちろんわざとではないだろう。
弁償するとも言ってくれたが、きつく怒鳴ってしまった。
「これはブランドの限定品で今は売ってないんだからっ。弁償するんならまったく同じやつを持ってきなさいよ」と。
冷静になってみれば、大人げなかった。割れたものは仕方ないのだ。
次に会ったら許すと言おうと思っていたら、美咲ちゃんが嬉しそうにやってきた。そして、なんとそっくりのカップを私にくれたのだ。
フリマアプリで必死に探しまくって購入したのだという。
カップは使い込んだ感じまで似ていた。

私は思った。
別の物でもいいから、新品が良かったな。