ある刑事の憂鬱

息子が親を殺したという通報があったので、T刑事は駆け付けた。先月も似たような事件があったばかりである。よくある介護疲れというやつである。

この息子も根は善良そうな、人の好さそうな顔をしていた。ちゃんと行政が適切なアドバイスをし、面倒を見ていれば、あるいはもう少し収入のいい仕事に就いて母を施設に入れることができていれば、このような悲劇は起きなかっただろう。

薬中毒の女を繰り返し逮捕したこともあった。これも根は悪い女ではないのだが、男にいいように利用され使われているだけである。男の方はしたたかに逃げている。

おれは悪い奴を捕まえて善良な市民を守るつもりで刑事になったのに、少し道を踏み外しただけで根は善良な人を捕まえて本当の悪を逃しているなと、いつも葛藤するのであった。

それでも被害者の人から、犯人を捕まえてくれてありがとう言われると満たされる。それを励みにしよう。