花火師の憂鬱

0
2

「私が死んだら、棺の中に花火を入れて欲しいの」
病床に伏せる高齢の母。ボケているわけではない。母は幼くして病気で亡くなった俺の兄を想って言っている。
兄は花火が好きな人だった。そんな兄が病気で亡くなった時、母は「もっとあの子と花火がしたかった…」と涙していた。そんな母を間近で見ていた俺が今、花火師をしているなんて本当に人生分からんものだ。
母は俺の子ども達と一緒に花火をしている時もどこか悲しそうな顔をしていた。ずっと兄を偲んでいたのだろう。
だから天国で兄と一緒にやる為の花火を…と言っているのだ。
当然、危険な行為なのでどの斎場も許しは出さない。だが俺は、それでも花火を入れようと思う。線香花火くらいなら問題ないだろう。
棺にはケイトウの花も入れておこう。ロウソクの火に似た花を添え、天国でも花火を楽しめるようにしておこう。
だから兄さん、久しぶりに母さんと親子水入らずの時間を楽しんでくれよ。
公開:22/07/29 20:52

幸運な野良猫

元・パンスト和尚。2019年7月9日。試しに名前変更。
元・魔法動物フィジカルパンダ。2020年3月21日。話の流れで名前変更。
元・どんぐり三等兵。2021年2月22日。猫の日にちなんで名前変更。

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容