蜷局を刺す

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絶命した蛇がいた。
その蛇は地面に突き刺さる刃物に自身の体を巻き付け、柄を飲み込んでいた。その体には刃物で切ったのか切り傷がいくつか見られた。
「僕もこうなりたいなぁ。」
まだ年端も行かぬ少年は呟いた。少年の体には蛇のような切り傷はなかったが、何ヵ所か青紫に変色していた。
少年の目は蛇の死骸から離れなかった。その目線には憧れが込められていた。

少年は今日も家庭で父親に暴力を振るわれていた。殴られた箇所が熱を帯びる。父親は少年を見て薄ら笑いを浮かべていた。少年は台所へ向かって逃げ出した。そして出しっぱなしの包丁を手に取る。いつもと違う少年の行動に父親は目を丸くしていた。この生活から逃れるには抗うしかないんだ。少年は思い出す。蜷局を刃物で刺され、逃げられなくなった蛇を。踠くように必死に抵抗した蛇を。
今は僕が蜷局を刺されている。だから僕は蛇になる

翌日、少年と父親の亡骸が家から見つかった。
公開:22/07/26 23:02
更新:22/07/26 23:06

リマウチ

超ショートショート書いていきます

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