ランドリー#1
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あなたの名前も忘れてしまったのに、ここが一番落ち着く場所だってことを思い出して、泣きながら走り出す。一度来ただけなのに、体が道を覚えていて、気が付けば、あのコインランドリーの前に立っている。ウッド調の、妙に新しい小さな洗濯家。真ん中に背中合わせで佇む2つのベンチは、不自然でぎこちない。後ろにあなたが座っていることを想像しながら、私は涙を流す。洗剤の気持ちのよい匂いに紛れて、じゃまっけな汗の匂いがする。私の足はきっと、ここから、あのアパートまでは、連れていってくれない。このオレンジ色の暖かい照明とは裏腹に、青白くて寂しい白い光の入る彼のアパート。たった3日の出来事がとてつもなく長く感じられ、遠い昔の記憶になっていく。私の心が虚無になるといつもあなたを思い出す。何もない、何も生まれない、あなたの鋭利ではかなげな表情が私の心をつかんで離さない。
その他
公開:22/07/25 23:53
読書が趣味で、自分でも書いてみたいなと思い始めました。
マイペースに投稿、どうぞよろしくお願いします。
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