カーテンの向こう側

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今は亡き父は商社マンだった。おかげで私は海外の日本人学校を転々として育った。父は職務上ビジネスクラスへの搭乗が許されているはずだったが、私を含む家族と一緒の時はエコノミークラスにしか乗らなかった。飛行機が離陸し、しばらくすると前方の通路がカーテンで覆われる。ある時、父に尋ねてみた。「あの向こうは今どうなっているの」と。飛行機という乗り物にも慣れ、ビジネスクラスという未知なる世界への興味がふつふつと湧いてきたころだった。まだ反抗期前だったが、そこには「どうして僕はビジネスクラスに座れないの?」という抗議めいた感情も含まれていたように思う。
「名前の通り大人たちが商談を繰り広げているんだ。だから子どもたちが入り込む場所じゃない」と父はピシャリと言って目を閉じた。

やがて大人になり、そこが疲れたおじさんたちの安置所のようになっていることを知った。父は単に私をがっかりさせたくなかっただけなのだ。
ファンタジー
公開:22/07/25 13:33
更新:22/07/25 13:39
思い出 飛行機

アカサカ・タカシ( Chicago )

2022年から米国シカゴ在住。

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