圏外のクリスマスツリー

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あれは真冬にひとりで登山を敢行したときの出来事だ。
夕暮れにさしかかり下山する途中、あいにくの吹雪に見舞われた山道で迷ってしまった。
とうとう真っ暗な夜となったが山小屋などは見つからず、仕方なくテントでも張って野宿しようと山中を彷徨っていたら森に出た。
すると、森の奥から仄かな光が見える。こんな山奥に民家があるとは九死に一生を得たと思い、急いで光の方へと向かうと一本の巨木が立っていた。
神々しく光る巨木のてっぺんには、夜空に燦然と輝く北極星が見えた。その姿は幻想的で、まるでクリスマスツリーのようだ。スマホは既に充電切れで、その姿を撮影することはできず、撮影できたとしても圏外だから誰ともその美しさを共有できない。
そして、そのまま意識が遠のいていったーー。
翌朝、樹齢何千年ともいわれる巨木でもたれかかって倒れているところを発見され、奇跡的に命に別条はなかった。
昨晩はちょうど聖夜だった。
ファンタジー
公開:22/12/24 07:00
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SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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