ぎゅーっ

勝って兜の緒を締めよ、という諺がある。
戦国時代、名のある武将になれそうだった私のご先祖様はその言葉通り、戦に勝って兜の緒をぎゅっと締めた。
それ故に、その兜は被れなくなった。

「何で脱いだ兜の緒を締めているんですか！？これじゃ被れないでしょう！ああもう！こんなにぎゅーっと締めて…どうするんですか！？これじゃ戦場に出られませんよ！」
怒る副官に、ご先祖様はこう答えたそうだ。
「なら、戦場はお主が指揮をとれ。兜を被れぬ儂はこの戦から降りる。儂は別に武功が欲しいわけではない。儂はただ、先祖から受け継いだ土地を守る事が出来ればそれで良い」

こうしてご先祖様はあっさりと武将の座を捨て、守った故郷へと残った。
敵軍もまた、ご先祖様の強さに慄き、「奴に兜を被らせてはならぬ」と、二度とこの地に攻めてこなかったと聞く。
勝って兜の緒を締めよ。
我が家では『退き時を間違えるな』という意味で伝わっている。