悪魔の囁きにご用心

会社でそれなりの成果を出し、大きな失敗もなく、言われたままに働く優良社員。それが私だ。
現在の仕事に不満はない。だが、時々息苦しさを感じる。会社が窮屈でならない。
「それなら独立したら？君のスキルなら大丈夫だと思うよ」
昔の私なら鼻で笑って一蹴しただろう。だが今の私は違う。会社を辞めてもやって行ける自信があった。
そうだ！私はそもそも使われる側の人間ではない！使う側の人間なんだ！
それに気付かされた私は自分の殻を破り、会社を辞め、独立した。

結果的に言えば独立は失敗した。そりゃそうだ。起業なんてそう簡単に上手く行くわけがない。
あの時、あの囁きに耳を貸さなければ…と後悔する毎日。
私に独立を促す囁きをしたアイツは悪魔だ。私はまんまと悪魔の囁きに耳を貸してしまった…
そのアイツはというと、私の破った殻を全身に身にまとい、私の優良社員の仮面を顔に貼り付け、私として今も会社で働き続けている。