ぎゅーっ

仕事中、妻が亡くなったと連絡が入った。眠るように、安らかに息を引き取ったようだ。
車を病院へと向かわせると妻が儂を待っていた。あの世に行くなら儂の運転する車で行くんだと決めてくれていたようだ。
妻を乗せ、車を出す。二人きりの最後の時間だ。
妻は儂に生前の思い出を語ってくる。どれもこれもが昨日の事のようだ。
儂はタクシードライバーという仕事柄、デートコースにも拘っていた。君を隣に乗せて走っている時間が大好きだったよ。

儂は妻を直で天国へと連れて来た。死後の裁判？そんなのする必要ない。妻の天国行きは儂が保証する。
車を降りる妻。「一足先に天国で貴方を待っていますよ」と微笑んだ。これでしばしの別れだな…
車を此岸へと走らせる。いつも以上にハンドルをぎゅーっと握っては安全運転を意識する。
儂は死後、妻の待つ天国に行かなきゃならないんだ。
善行は積んでも、悪行は積んで走らぬようにと気を引き締めた。