こぶし

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いつの時代、誰の言葉かは定かでないが、赤ちゃんのこぶしには運命が詰まっているのだそうだ。
固く閉じたあの小さなこぶしに、人は一生分の運命を握って生まれてくる。
七つまでは神のうち、とこれも古い諺だが、ようやく開いた幼い目で、じっとこぶしを見つめる赤ちゃんは、もしかすると自分の運命をも見つめながら、今後の人生を受け止めようとしているのかも知れない。

成長につれ開いたこぶしは、やがて大きくしっかりした手に育ち、様々なものを掴み操るようになる。
引き換えに指の間からすり抜けていった運命を、再び握り直す事はおそらくない。けれど身近にいる誰かと、未来で出会う誰かと手を取り合う時、わけもなく涙のこぼれる瞬間があるとすれば、それはきっと、かすかに残る運命のかけらに触れた証なのだ。

そしてまたいつか、腕に抱きしめた小さな握りこぶしを見つめ、その中に自分の運命の一部が確かに詰まっている事を思うのだろう。
その他
公開:22/12/12 13:37
月の音色 月の文学館 テーマ:ぎゅーっ

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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