香炉に入る

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ぼくは香炉の中に吸い込まれた。何故そんなことになったのかはさっぱり分からないが、中の居心地はよかった。感じたことのない安心感、安らぎがあった。
母がぼくのことを探し始めた。しかし見つかるはずもない。やがて悪態をつき始めた。
ぼくは母が苦手だった。無関心無感動な父も嫌だったが、高圧的否定的な母はもっと嫌だった。このままずっと香炉の中にいてもいいなと思った。
どれくらいの月日が経ったのかは分からないが、お経の声が聞こえ始めた。坊さんが外で唱えているようだ。香炉の中に居続けることができずに、ぼくは外へと放り出された。
母は涙を流しながら、ぼくを抱きしめてくれた。何だかんだ言っても親なんだ。この人を信じて生きていこうと思った。
しかしぼくが香炉に入っていた空白の時間はかなりあるらしく、母から勉強を強引な詰め込み式でやらされた。金を使わせやがってとか、お前にも隙があったのだろうと嫌味を言われた。
ファンタジー
公開:22/12/10 21:36

ぴろわんこ

少し変わった、ブラックな話が好きです。

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