カンバスタイム

銭湯の壁に書かれている富士山。あの絵には実は秘密の塗料が使われている。
その塗料の名は”疲れ”。浴槽にこびり付く、一見すると湯垢にも似たものである。
疲れにも色がある。仕事疲れ、家事疲れ、遊び疲れ、買物疲れ、等々。
そんな疲れの色を絵具に混ぜて、銭湯の壁に絵を描く。するとどうなるか。
疲れは疲れを呼ぶ。疲れた人はこぞって銭湯を訪れ、知らず知らずのうちに壁の絵に吸い寄せられる。
銭湯の壁に描かれた絵が良いものだと思う人の９割は疲れている。
さらに銭湯の熱い湯によって人体から溶け出た疲れは、壁の絵へと吸収される。銭湯の絵がいつ見ても綺麗なのは絶えず疲れの補充がされていたからなんだ。銭湯から出ると疲れが抜けているように感じるのはそのせいなんだ。
しかしそんな銭湯も、最近では人と会う事に疲れる”対人関係疲れ”のせいで徐々に客足が遠のいてしまっている。
塗料が足りず、壁に書かれた絵も崩れかけている。