平面アンテナ

古い階段を軋ませるように上りながら新米の配管工はつい先ほど言われた師匠の言葉を繰り返した。
「配管工よ、パイプには何を流すか。気体液体固体も流す。ライフラインも全て管でつながれる。そもそも人間は管である。管をつないだり外したりする行為は人間世界の心理でさえある」
配管工は階段を上り切ると廊下を走る。突き当たりは大きな窓。木製の窓枠でガラスを何枚も嵌めている。配管工は一枚ずつサイズを正確に測定し、それぞれ木枠に沿って回路のついた透明フィルムを貼ってゆく。窓に平面アンテナを貼り付けるのが最初の仕事だ。フィルムから伸びた導線を木枠にそわせる。導線は見えないようにコンセント壁の穴に嵌める。師匠は言った。
「管は固体液体など物質を運ぶばかりではない。目に見えない電磁波もつなぐのが配管工である。見えない配管によって情報が行き来する。この世界の全てのネットワークを構築するのが配管工の仕事なのである」