真面目なふたり

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小さなアパートで聴く小さなラジオからは数十年に一度の寒波というニュースが流れている。
その冬、近所にラーメン屋ができた。いちどは食べてみたい有名な達人の店だ。
「こう寒いとすっからかんになってもいいから今すぐ食べたいな。」
「我慢我慢。寒いって言ったら罰金にして、これがいっぱいになったら食べに行きましょう。」
贅沢は出来ないから…彼女はそう言って貯金箱を置いた。

それから数年、何十年に一度のはずだった寒波がずっと続いていた。けれど真面目に働いたおかげで僕の収入は増え、今は快適なマンションに住んでいる。仕事から帰れば部屋は心地よい空気に包まれて、傍から見れば贅沢な暮らしぶりも僕らにはただの日常。

しかし、あの貯金箱は未だ空のまま置かれている。僕も彼女も「罰金を払う」ような事は言いたくないし、これ以外の金を使って行く気にはなれないのだ。
あのラーメンを食べられる日はいつになるのだろうか。
その他
公開:22/11/22 01:34

ふみづきそよ

思いついた時になにげに書いていきます。
ログイン出来なくなってしまったので初心に戻って。

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