雪催い~ゆきもよい

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北国に暮らしていると、雪催いの香りに触れる機会が多い。
雨の降り初めに地面から上る香りをペトリコールと呼ぶが、今しも雪の降りそうな銀鼠色の空からも、独特の香りがこぼれてくるのだ。
気持ちのぴんと張る様な、それでいてそわそわ浮き立つ様な。ペトリコールが石の雫だとすれば、雪催いの香りは雲の雫とでも表すべきかも知れない。

最初の凩が過ぎた後、舞い降りた風花が強く香ると、その年は雪が多いという。
地上の植物と同じく、六花にも当たり年があるらしい。雲の森で氷の種が芽吹き、枝葉を茂らせ花を結ぶ。見渡す限りの満開に咲いた雪は、冬中見事な白吹雪を風に散らす。
厳しくて、冷たくて、それでも待ち遠しい景色が、もうじき私の住む町を染める。


凛と冴えた霜月の朝に窓を開ける。
すっかり葉を落とした裸木を眺め、明日梢を飾る花を待ちながら熱いお茶に舌鼓を打つ。

ほっと漏れた吐息の雲から、雪催いが香る。
その他
公開:22/11/14 14:30
月の音色 月の文学館 テーマ:心くすぐる香り 朗読採用いただきました♪

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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