心くすぐる香り

本は印刷された時代によってインクの香りが違う。
古本になると香りにも癖が出てくる。私は癖のある香りが大好きだ。
そんな私を祖父は可愛がってくれた。どんな形であれ、本を愛してくれるのなら嬉しいと言ってくれた。
祖父の部屋には大量の古本が納められている。私にとって天国のような場所だ。
だからよく遊びに行っては古本の香りを楽しんだ。

今日、何気なく手に取ったのは１冊の古いノート。
開いてみると珈琲色に変色した新聞紙がいっぱい貼られてあった。スクラップノート、という奴か。
新聞紙の香りを楽しみながら、ノートをめくる。はらり…と何かが落ちた。
新聞紙が剥がれたのかな？と思って見てみると、それはスイトピーが押し花された栞だった。
栞からは幽かに花の香りが漂って来る。いい匂い…
ノートへと目を落とす。新聞のスクラップを見ると母が生まれた日付のものだった。
私はそれでスイトピーの花言葉を思い出した。