失意のレインコート

6
4

配管工は最後のパイプを締め直して、一息ついた。中規模マンションの地下2階。近くの川から浸水しやすいため流れ込んだ水を一旦地下2階で溜めておく構造である。先日の大雨で漏水の音がすると住人から連絡があった。新米配管工が一人でパイプ点検に派遣されたのである。広くはないが点検には時間がかかった。各所のパイプ継ぎ目を締め直し、点検し終えると夕方になった。配管工は地下3階に降りた。天井の低いがらんとした空間にある主バルブを開けて漏水がなければ本日の仕事が終わる。バルブを慎重に開ける。と、ぽたぽたと水が落ちる音。そんなはずはないと配管工は青ざめた。水はどんどん漏れて雨のようにざあざあと降り地下3階の床には水たまりができた。修理しなければ。配管工は急いでバルブを締めたけれど水は止まない。水の雨の中に茫然と立ち尽くす配管工の後ろからそっとレインコートを誰かが着せてくれた。地下には配管工一人きりのはずだが。
その他
公開:22/11/09 17:18

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容