化石ワイン

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ワインの産地として知られる高原で友人が営む、年代物のあらゆる品が揃うと評判のワイナリーを訪ねた。
ワイナリーから地下に通じる鍾乳洞のような空間に、所狭しと時代ごとにワイン樽が置かれていた。
平成、昭和、大正、明治と時代を遡り、江戸時代の幕末にギヤマンのコップで飲まれたという葡萄酒、戦国時代の南蛮貿易で日本に入ってきたという舶来品まで、歴史を感じさせる貴重なワイン樽ばかりだ。
驚いたことに、さらに古い時代のワイン樽は鍾乳洞内の奥に安置されており門外不出という。
友人は、今日が私の誕生日と知っていて特別なワインを試飲させてくれた。
そのワインは、かなり熟成されているのか深く濁り、蜜のように甘く芳醇な香りを放ち、琥珀色に輝いていた。
一口飲むと、ジャングルの中を走り回る恐竜の姿が脳裏に駆け巡った。
愕然としていると、友人曰く「白亜紀にできた『化石ワイン』と呼ばれる太古のヴィンテージもの」だった。
その他
公開:22/11/12 07:09
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SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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