BAR「石」

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しばらく足が遠のいていたバーのマスターが行方不明だという噂を聞いて、久しぶりに「石」に行った。店内は昔ながらの落ち着いた雰囲気。入口に石地蔵が立っている。賽銭箱がある。箱にお札を入れるらしい。千円札を入れると、地蔵の前にグラスが現れて液体が注がれる。「石」の水割りだ。グラスを手にして俺は気に入りの席に向かう。大きな石の壁の前。目の前には石。柔らかな照明で細かな肌理。ここで一人で水割りを愉しんだものだ。石に向かっていると仕事や生活の雑事がすうっと消える。
「お久しぶりです」常連客がやってきて俺にささやいた。俺が軽く会釈すると男は話し始めた。
「マスターは、自動ロボットの地蔵人形を作って店が続くようにして失踪したそうです。案外あの石地蔵がマスターの化身だったりしてと思うんです」
俺は否定も肯定もせず石の壁を眺めた。マスターが変身したのなら、地蔵ではなくこの大きな石の壁に違いないだろうと思った。
その他
公開:22/11/11 16:37

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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