そこでは首輪をはずして

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観光資源が何も無い村は財政難に苦しんでいた。
ある者の提案で起死回生の一手に出る。国に何度も掛け合い村を『とある保護区』へ認可させる事に成功した。

村は人気の観光地へと変貌していた。取材記者は担当者に尋ねる。
「現代社会の裏をかいた発想の理由は?」
「単にピンチはチャンス、ですよ。ここは主要キャリアに何度お願いしてもけんもほろろだったんです。ならいっそ固辞してやろうと」
記者は無意識にスマホを操作する。「あ、そっか」と苦笑いした。
「この村の滞在証明を活用すれば、連絡が取れなかった事で生じる社会的責任が無条件で免除されます。ここなら、現代人は真の意味で一人になれるんです」
礼を言い記者は録音を止めた。「すみません公衆電話はどちらに?」「公民館にありますよ」
記者は頭を下げ小走りで駆け出す。担当者は記者の首にまだ首輪が付いているように見えた。

ここは国で唯一の『圏外保護区域』の村である。
SF
公開:22/10/24 12:00
更新:22/10/24 12:26

吉田図工( 日本 )

まずは自分が楽しむこと。

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