告白雨雲

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老人ホームに勤めて一年経つがその老人に面会者が来たことは一度もなかった。
「雨が降りそうですね」
そう話しかけると、窓辺に座って雨雲を見上げていた老人は独り言のように告白を始めた。

その日は秋晴れの良い天気で息子と動物園に行った。離婚後、息子とは3ヵ月に一度会える約束になっていた。午後になって雨雲が近づき雨が降り出したので売店で傘を買った。屋内施設に入り傘を畳むと息子は剣のように振り回して遊び出した。危ないからやめなさいと声をかけようとしたとき、息子と同じ年頃の男の子が走ってきて、段差に躓き、傘に向かって転んだ。傘はその子の目を貫いて深く刺さっていた。とても助かりそうにない。周りを見渡すと3人以外誰もいない。怯えている息子を優しく抱きしめてこう伝えた。
「誰かに『傘は誰が持っていたの?』って聞かれたら『お父さんです』と答えるんだよ」
息子を離すとハンカチで傘の柄を拭き、そして握りしめた。
その他
公開:22/10/23 23:43
毎週ショートショートnote 今週のお題 便乗

ひろいてん

面白そうなので参加してみました。
(サーバーに問題が発生したらしく、別のアカントで新規登録しました)

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