忘れかけていた小物入れ

使っていない小物入れがある。母が昔私を育てている時に私に関する物を入れていたらしい。私もいつか貴重な物を買ったら、そこにしまおうかと考えていた。
しかしいつまで経っても、そういう物は無かった。いや、その時々でそれなりに大切な物はあったのだが、あまりそこに収納する気になれなかったのである。次第にその存在を忘れかけていた。
やがて私も結婚した。嫁ぎ先に忘れかけていた小物入れも持って行った。古びてはいたが、将来使うかもしれないと思ったのだ。
子どもを産んだ。忘れかけていた小物入れに、子どもに関する物を入れた。
子どもの物は一段と輝いて見えた。
子どもを大事にしなさいという啓示だったのだろう。子どもは優しい心の持ち主となり育っていった。
母が使っていて、あなたも子どもができたら自分の子に使いなさいと置いてあったのだろう。聖なる小物入れなのかもしれない。こういう物があれば虐待はなくなるのだろう。