錫虫

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ある秋の夜。鈴虫の鳴き声が響き渡る草むらで、月の光に照らされてキラキラと輝く鈴虫が発見された。
この鈴虫は、金属の光沢を帯びており錫色をしていた。生物学者が調べたところ、突然変異で体が錫でできた鈴虫に似た昆虫とわかり、「錫虫」と命名された。
もともと鈴虫が棲む草むらのある森の近くには、大規模な錫の鉱山があった。鈴虫が何らかの環境下で錫の成分を摂取するようになり、錫が体内に蓄積されて錫虫になったのではないかという学説が発表された。
早速、錫でできた鈴虫、動く錫の鉱山という噂が広がり、虫好きの親子や貴金属を取り扱う商人らが、草むらのある森に殺到した。
瞬く間に錫虫は採集されてしまい、森で乱獲が進むと、錫虫の個体数は激減していった。
その後、錫虫は鉱山開発によって産み出された公害の落とし子だから保護すべきとの声が澎湃としてわき起こり、錫虫は絶滅危惧種に指定され、森や鉱山への立ち入りも禁止された。
その他
公開:22/10/15 07:00
鈴虫 鉱山 開発 公害 落とし子 保護 絶滅危惧種

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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