つらいときに

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その日私は、唯一の友人を失った。事故だった。
病院からの帰り、私は暗い川沿いの道を歩いていた。ふと声をかけられた。
「悲しいことがあったみたいだね。これをお食べ」
背の低いお婆さんが鞄からタッパーを取り出した。〈辛いときに食べるキムチ〉と書かれていた。
「からいときに食べるキムチ?」
「いやいや、これはつらいときに食べるキムチだよ」
お婆さんはにっこり笑ってタッパーの蓋を開けた。私は無意識のうちに手を伸ばし、キムチを口に運んでいた。はじめこそピリッと辛かったが、すぐに白菜の優しい甘さが口いっぱいに広がった。
「おいしいです」
私の目からは涙が出ていた。
少しすると人の声がしてきた。
「大丈夫?」
一人や二人じゃない。たくさんの人が周りに集まり私に声をかけた。ふと自分の体に目をやると緑色に光っていた。
「これは発光食品だからね。蛍の周りに人が集まるのと同じよ」
私はもう、孤独じゃなくなった。
その他
公開:22/10/10 15:00
更新:22/10/10 17:34
キムチ 発光食品

雪宮冬馬( 日本 )

Yahoo!でのログインがどうもできないので新たに作りました。
20代男。趣味でショートショートを書いてます。
夢は「坊っちゃん文学賞」受賞!

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