筆致俳句

14
7

俺は、さすらいの旅人――。
短冊と筆を持ち全国をかけめぐっている。
移動手段は徒歩以外に、通りすがりの自動車に乗せてもらうヒッチハイクだ。
いや、それは、俺の旅の作法を正しく伝えていない。
文字の書きぶり、つまり筆致を頼りに、停まってくれた自動車の運転手の意に沿う俳句を即興で書いて、認めてもらえれば乗せてもらうという暗黙のルールを自分に課している。
これを俺流に「筆致俳句」と呼ぶ。
俺は、超一流の俳人になるため、江戸時代に俳聖の松尾芭蕉が『おくのほそ道』をたどったように、道すがら俳句の腕を磨く修行に励んでいるというわけだ。
旅のゴールはまだ遠い……
足は棒になり、自動車も停まってくれず、奈良は斑鳩の国道沿いで足踏み状態だ。
ただ、このあたりで憧れの俳人が一句、書いている。
「柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺」と。
そう、旅の目的地は、近代俳句の父と称される正岡子規を生んだ愛媛の松山と決めている。
青春
公開:22/10/10 07:03
旅人 短冊 徒歩 自動車 ヒッチハイク 筆致 俳人 松尾芭蕉 正岡子規

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容