ハル

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 玄関の上り口に回覧板を持ってきた隣家の山田さんが座る。今日も喋っていく気らしい。
 奥の部屋から3歳になる娘の声が聞こえてきた。
「ハルちゃん、ご飯ですよ」
 山田さんが首を伸ばす。娘の話が気になるらしい。
「好き嫌いしないで」
「はい、あーん」  
 山田さんが私の顔を見た。
「お子さんは1人よね」
 私は頷く。
 部屋のドアは閉まっていて中は見えないが、娘の影が映っている。
「あ、こぼさないで」
 山田さんは微笑んだ。
「お人形と遊んでるのね」
「たぶん違います。最近、変なものと遊ぶんですよ」
 彼女の眉間に皺が寄る。拝むように両手を擦り合わせた山田さんは転がるように玄関から出ていった。
 ガッツポーズをした私はリビングへ行く。
「ハルちゃん、ご飯を食べたの」
 お気に入りのタオルを抱いた娘が嬉しそうに頷いた。それに描かれた子猫が『ハル』だ。
 私は娘の頭を撫でた。
その他
公開:22/10/11 18:00

志雨

2021年3月に小説を初めて完成させました。いろいろなジャンルのショートショートを書いていきたいと思います。
 

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