寛容植物

「客だからって、何様なのっ！」
コールセンターに勤めて数ヶ月が経つ。威圧的に怒鳴る客、ネチネチとしつこく絡む客。もう、心が折れそうだ…

仕事の帰り道、花屋の前を通りかかったとき『寛容植物』に目が止まった。
「よかったらいかがでしょうか」
「おいくらでしょうか？」
「これは売り物じゃないの。気に入った人が持ち帰れるのよ」
「じゃあ、遠慮なく」
「但し、枯らしてはダメよ」
「はい」

家に帰ると日当たりよい場所に置き、枯れないように水と肥料を与えた。不思議なことに職場でどんなに辛いことがあっても『寛容植物』を眺めていると何でも許せるような気分になった。気分が落ち着いてくると趣味が増え、だんだん『寛容植物』の面倒をみるのが億劫になり、とうとう枯らせてしまった。

その後、会社の都合で仕事を辞めることになった。再就職先も決まらず貯金が減っていく一方だ。理不尽でも何でも許せる気分が続いていく…