亡き夫からの手紙

数年前に亡くなった夫は旅行が好きだった。
旅先で手紙を購入してはその場所で感じたものを感じたままに書き、自宅へと送る夫。
夫の書くものはその土地の空気を孕んでいて、読み返すと旅行中何があったか鮮明に思い出せる。
私はそんな夫の手紙が大好きだった。
そんな夫の影響で私も旅行が好きになった。
夫亡きあと、私も夫を真似て訪れた旅行先から手紙を送ろうとした。
ダメね…手紙なんて何をどう書いたらいいかまったく分からない。私は手紙を白紙のまま投函した。

数日後、旅行先から自宅に手紙が届いた。
手紙には夫の字で「儂はいつでもお前の傍にいる。お前の感じているものを、共に感じている」と書かれていた。
涙が出た。霊感なんてまるでない私。
だけど私は今、しっかりと亡き夫の存在を感じられた。
それからというもの、私は旅行先から白紙の手紙を送るようになった。
自宅に届くと白紙だったそれは夫の書くもので溢れている。