針を読む

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針を読む。その作業は細かくて目が疲れてくる。針がひとつ、ふたつ、みっつ……。今日も老婆は針を読む。
「なにか用かね」
老婆は振り向きもせず言う。
「いやあ、別に……」
と男は答えた。
「なんでそんなものを読んでいるんだね?」
老婆は男の読んでいる本を指さして言った。
「あんたが読めと言ったんじゃ。あんたこそなんで針の数なんて読んどるんじゃ」
「私は、ただのんびりしているだけだよ。私はもう死ぬだけじゃけえ」
「そうかな? まだ死んではいないぜ」
「そう思うかい?」
「ああ」
男はこれでも老婆を元気付ける言葉を選んだつもりだ。
「私が死んだら、この針を棺に入れてくれよ」
「聞かせてくれよ。その針の話」
男は本を持って立ち上がった。老婆はゆっくりと語り出した。
「爺さんは閻魔様じゃった。針千飲ますってことわざがあるじゃろう。千本数えるのが大変だから私が千本数えとるんじゃ」
老婆の目は優しかった。
公開:22/10/06 10:14

富本アキユ( 日本 )

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