雲の上に面影

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 昔、たしか小学校に上がってすぐの頃。
 それは教科書に載っていた遊びだった。雲の少ない日は足元に落ちる黒い影をジッと見つめてから、空を見る。そうすれば自分の影を空に送ることができるらしい。
 
 空の向こうに行ってしまった人に送るんだったっけ。よく覚えていない。
 私はただ、夏の濃ゆい青空を眺めていた。強い日差しが反射して白く輝く雲の眩しさに目を細めながら、ずっと。ふと思い出して送った影はとっくの昔に消えている。
 厚く柔らかな質感を持った雲は力強くもあり、その背に何かを乗せているように感じた。実際は、誰も住んでなんかいないのだけれど。
 
 夏の太陽が生む真っ黒な影の残像は、どこか彼女の面影を抱いていた。ような気がする。
 
公開:22/10/06 01:14
更新:22/10/11 14:53

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