悲願花

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暑さ寒さも彼岸までとは実に言い当て妙だ。夏の暑さも秋には和らいで凌ぎやすくなる。この季節に咲く赤い花が彼岸花で、彼岸花にまじって人知れず咲くのが「幻の彼岸花」と呼ばれる悲願花だ。悲願花の姿形が彼岸花とそっくりなので、まったく見分けがつかない。
悲願花はその名のとおり咲けば、悲願が成就する。例えば、高校の校庭に辺り一面、普段は見かけない赤い花が秋の彼岸に咲き誇れば、悲願が成就され、翌年に野球部が甲子園出場を果たし、深紅の大優勝旗がもたらされる。
ただ、悲願花が咲くまでに枯れてしまう、あるいは刈り取られてしまうと悲願は成就しない。そもそも悲願花は滅多に咲かないので、悲願花が咲いたことを知るのは、悲願が成就したあとのほうが多い。
今年も秋の彼岸がやってきた。どこかで必ず悲願花が咲いている。今はまだわからなくても、悲願が成就したあとに気づくはずだ。あのとき彼岸花とよく似た赤い花を見かけたことに。
その他
公開:22/10/01 07:16
暑さも寒さも彼岸まで 彼岸花 悲願 成就 高校野球 甲子園 深紅の大優勝旗

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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