母の味噌汁

8
2

母の作る味噌汁の味は、忘れることが出来ない。もう随分と前にアルツハイマー型認知症だと診断された母は、症状が悪化して、ついには私の事すらも忘れてしまった。そんな母の介護に毎日追われる私は、介護疲れで精神的に参ってしまっていた。ある日の事だった。少し目を離した隙に、母が台所に立っていた。そしてコンロで火を点けようとしていた。
「何やってるの!!」
私は思わず叫んだ。睡眠不足と疲れからくるイライラから、初めて母を怒鳴りつけた。
「ごめんなさい……。味噌汁を作ろうと思って」
「味噌汁……?」
「どこのどなたか存じませんが、親切にしてくれるので、お礼をと思いまして」
私は涙が出た。
「ごめん……。ごめんね、お母さん……」
「いいんだよ。明日は晴れるからね」
私は昔、母に教えてもらった、母直伝の味噌汁を作った。そして食べた。とても優しい味がした。
「ごめん。頑張るから」
私はまた頑張れる気がした。
公開:22/09/30 09:07

富本アキユ( 日本 )

カクヨムにも小説を投稿してます。
Twitterは@book_Akiyu

・SSG投稿作品1500作品突破

・作詞を担当
https://youtu.be/OtczLkK6-8c

・葉月のりこ様YouTubeチャンネル『ショートショート朗読ボックス』~ショートショートガーデンより~の動画内で江頭楓様より『睡眠旅人』を朗読して頂きました。

https://youtu.be/frouU2nCPYI

・魔法のiらんど大賞2021小説大賞。大人恋愛部門「彼女の作り方」が予選通過

〇サウンドノベルゲーム版作品(無料プレイ可)

ブラウン・シュガー
https://novelchan.novelsphere.jp/38739/

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容