酔族館

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残業の後、飲みに出た俺は、一軒の店の看板に目をとめた。
「酔族館(すいぞくかん)」か。洒落てるじゃないか。
店に入ると、大きな水槽があり、無数の魚が泳いでいた。本当の水族館のように。
「お疲れのようですわね。」
そう言って、金魚のような赤いドレスを着たママが、おしぼりを差し出した。
「わかるかい。ビジネスの世界は弱肉強食だからね。気が休まらないのさ」
すると、ママは一杯のグラスを差し出した。
「このお酒で、浮世の憂さを忘れてくださいな」
それは、まるで深い海のような青色の酒だった。
ひと口含むと、何にも例えようのない神秘的な味だった。俺は夢中になって飲み干した。そして……。

気がつくと、俺は一匹の魚になり、水槽の中を泳いでいた。
一瞬呆然としたが、それもいいかと思い直した。あの食うか食われるかの世界から抜け出せるのならば……。
そう思った時、目の前に、鋭い牙の並んだ、巨大な口が現れた。
その他
公開:22/09/25 01:25

和倉幸配

断続的にではありますが、趣味で細々とショートストーリーを書いています。

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