アナログ通訳

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 大学の構内カフェの一角で3人の男子学生がランチをとっている。その中の1人、佐伯が隣に座る帰国子女の野川を見た。
「俺、海外旅行したいんだ。野川、一緒に行こうよ」
 視線を向けられた野川は苦笑いする。
「翻訳アプリがあるだろ」
 素っ気ない返事に佐伯は口を歪ませた。 「それすら面倒なんだよ」
  向かいに座る間宮が自分を指さしている。 「俺が一緒に行こうか。日常会話なら問題ないはずだ」
 佐伯は眉間にシワを寄せる。
「お前が英会話できるって聞いたことないぞ」
 片方の眉を持ち上げた間宮は、バッグから英和辞書を取り出した。
「野川、何か英語を話してよ」
 野川は首をかしげながらも、間宮の要望に応じて話しだす。
すると、間宮は目にも止まらない早さで辞書をめくり出した。
 野川が英語を話し終えてすぐ、間宮は見事に日本語へと訳した。
「ま、アナログだけどさ」
 間宮は得意げに笑った。
青春
公開:22/09/27 17:00

志雨

2021年3月に小説を初めて完成させました。いろいろなジャンルのショートショートを書いていきたいと思います。
 

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