秒針の食事

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カチカチカチ…
音が、静かな古びた時計店に響く。
夕日が差し込む店内で、年老いた店主と野良猫が、こくりこくりと居眠りをしている。
商店街の一角に構えた時計店は、店主の祖父が始めた店で、今の店主が後を継いだ。
カチカチカチ…カチッ
音が消えた。先程まで、音を鳴らしながら時を刻んでいた秒針が止まったのだ。
この時計は、店を継いだ時、一緒に受け継いだもので、本人達も気づいていないが、不思議な力を持っている。
それは、持ち主が刻むはずだった時を秒針が食べてしまう力だ。
毎日三回、一回に数百秒ずつ。秒針は、時間を食べる。
その食事の間、持ち主の老化は、止まる。
これが、何十年と繰り返され、店主の寿命は、少し延びていた。
…カチッカチカチカチ…
食事が終わったようだ。秒針は、再び動き出した。
ここ最近、秒針の食事量が少なくなってきている。
そろそろ、次に受け継ぐ時が近づいているのかもしれない。
ファンタジー
公開:22/05/12 18:18
更新:22/05/16 19:00

むーさく( 北海道 )

初めまして!むーさくです(^^)
黄色と緑と黒が好き!秋と冬が好き!
私らしい作品を模索中です!
絵本や、児童文学の優しい世界観が好き!

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