感情のカートリッジ

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 カートリッジの詰まったパレットが積み上がっている。特有の、甘い匂いが作業所に充満している。他人の感情の残り香だ。ポジティブな感情の消費にはカートリッジが必要で、空になったらこうして回収される。ひときわ大きなサイズのカートリッジは、巨人用だ。芸能人だろう。五年は幸せな気分のままでいられる量を、数日で使い切る連中だ。
 巨大な体を見せびらかし、感情を浪費して見せつけることで、他人に感情を喚起するきっかけを与える。どれだけ図々しい職業なんだ?
 くだらない思考が脳の底に溜まっていく。駄目だ。感情がいる。思考を処理するための感情が。便所でカートリッジをねじ込んだ。頭の奥から感情のさざ波が湧き上がる。喜びから寛容、納得。彼らは普通より感情を上手く扱えるんだから、手本になって当然だ。便所の鏡に自分の顔が映っている。やっぱりそうだ。こんな普通のサイズの顔じゃ、何を感じてるのか、さっぱり分からない。
その他
公開:22/05/12 20:00

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