離婚した夫の幽霊

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 離婚した夫の幽霊の存在に気付いたのは息子だった。パパがいる、という発言は私を驚かせ、怯えさせた。だがそれは幽霊であり、私にも見えた。ぼうっとした存在感は昔のままだった。本人に言わせればそれは疲れているからとのことだった。そう主張する時だけ彼は空元気で怒鳴り、中身の入った缶酎ハイを人に投げつけた。死んだという話は聞いていないので、生霊かもしれなかった。幽霊の彼はシンクに放置してあった皿を洗って片付けたり、洗濯物を取り込み畳んだり、息子の送迎などをした。やって欲しいとあれほど頼んでも、やらなかったことばかりをやっていた。今更、悔いているかのようだった。目を見開き、唇を噛み締め、生きている癖に死んでも死にきれない表情で、幽霊がそこにいる、そしてそこにいるのは幽霊なので本当はいない、そうわかっていてもぞっとした。こちらで先に除霊して、費用を相手方に請求できないか、今度弁護士に尋ねてみるつもりだ。
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公開:22/05/10 20:00

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