こいのぼり

「やはり、五月といえば鯉のぼりだよね」
友人とたわいのない会話で盛り上がる。
「そうだな。もっとも最近べつのこいのぼりができたらしいぞ」
友人が指差す先を見ると、一人の俺くらいの若者がまわりの人達に囲まれて万歳三唱されているところだった。
なんと若者は武者姿で幟を背中にしょっている。その幟にはでかでかと「恋愛成就祈願」と書かれていた。

「では、頑張ってまいります！」
「応援してるぞ！」
「お前ならできる」
周りの人に見送られながらその若者はいざ出陣とばかりさっそうとどこかへ向かっていった。

あまりのことに面食らっている俺。
「どうだ？　あれが最近流行りの『恋幟』さ」

「恋幟？」
「そっ。もとは武者人形を作っているメーカーの企業戦略だったらしいがな。ああやって武者姿で恋愛祈願の旗をしょって告白すると恋愛が叶うんだと」
俺は馬鹿馬鹿しいと思いつつ、武者姿が自分に似合うか考えてしまった。