笑う鼻

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道で転んでしまった。賑やかな繁華街、土曜日の晴れた昼下がり。路面が濡れていたのでもなく凍っていたのでもなくバナナの皮を踏んだのでもなかった。原因は不明ながらも大勢の人が通行する路上で転んでしまった。ふいに滑って、つるりとではなくふうわりと転んだ。気がつくと右足を空に向けて宙を舞っていた。スローモーションのように回っていた。路上に浮かんでいるあいだに(しゅんかんのことだったのに)高層ビルの先に大きな鼻をみた。まぶしいほどに鼻が坐っているのをみた。鼻にしてはずいぶん巨大でおまけに立派な椅子に坐っている。風をうけて鼻は微動もせず椅子の上で何かを黙考しているのか。鼻毛は一本もなく、ただ坐っているばかりの巨大な鼻には近寄りがたい思いがした。空中を回りながらも後ずさりしてしまうような鼻。鼻が笑う。鼻に鼻で笑われた。鼻が呼吸をしているのかどうかたしかめたいと思ったとき路面に落ちた。したたかに鼻を打った。
その他
公開:22/05/09 17:57

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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